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東京高等裁判所 昭和51年(く)128号 決定 1976年7月26日

少年 S・O(昭三一・八・二六生)

主文

原決定を取り消す。

本件を千葉家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の理由は、少年が提出した抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は、原決定が少年に対し中等少年院送致の処遇をしたのは著しく不当であると主張するに帰する。

そこで一件記録および当裁判所の事実取調べの結果を綜合して検討すると、本件各非行は、少年がA及びB(いずれも少年)を自分の自動車に同乗させて深夜走行中、右二名が二回にわたつて、被害者らの自動車が暴走族らしいからやつつけてやろうとか、かつて右Bが暴行を受けた暴走族の自動車に似ているから仕返しをしようなどという動機から、被害者らの自動車の走行を妨害して停車させ、各被害者に対し執拗な暴行を加えたうえ金品を強取したものであつて、その態様は悪質といわねばならない。しかしながら、少年と右共犯者らは顔見知りではあつたが、平素から深い交際があつたのではなく、ましていわゆる非行グループを構成していたものではなく、たまたま本件各犯行の前夜少年が自動車で遊びに出た際行きあつたにすぎず、また各犯行において、これを発案し、主となつて実行行為をするなどして主導的立場にあつたのは前記Aであると認められ、少年は、同人に追随して犯行に加わり、自分自身も被害者らに或程度の暴行を加えてはいるが、多分に他の共犯者らに対して虚勢を張るための行為であることがうかがわれるのであつて、各非行は、偶発的であり、少年の果した役割りも必ずしも高度のものではなかつたと認められる。また事件後右犯行が新聞に報道されたことを知るや、少年が右A及びBを誘つて捜査官に自首し、各被害者らとの間に示談も成立したことなど、非行後の情状において汲むべきものがあると認められる。少年の性格は、原決定も指摘するように視野が狭く綜合的な判断力に欠け、主体性に乏しく付和雷同性があつて、責任感が乏しいなどの欠点はみうけられるが、さりとて少年の非行性を顕著に推測させるなど特に問題視すべき性格の偏りはない。少年は、原決定が摘示するように、○○総合職業訓練校を卒業後、浦和市内の○○サービスセンターの修理工見習を経て、昭和五〇年四月家に戻り、父の経営する電気器具店の仕事を手伝つて本件非行の日に至つたのであるが、その間仕事には比較的真面目に従事していたことが認められ、昭和五〇年一月に道路交通法違反(信号無視)により反則金を課せられたほかに非行歴はない。もつとも家に戻つてから父母と別棟(母屋に隣接する倉庫の二階)で生活し、右部屋に友人数名が夜遅くまでいたため父に叱責されたこともあり、右の居住関係も一因となつて喫茶店に出入りし、映画を見に行くなど夜間外出がかなりあつたことは原決定のいうとおりではあるけれども、右夜間外出に伴つて原決定の指摘するように格別不良交友が広く深くなつて行つたと認めるには足らない。また少年の父母は、原決定の指摘するように少年に対して、別棟に居住させたり、身分不想応の乗用車を買い与えるなど、多少甘やかす傾向があつたとはいつても、長男で家業のあととりである少年に対する親の愛情を考えると、これらをもつて原決定のように過保護で指導力に欠けるものと非難するのは酷に過ぎるきらいがあるばかりでなく、むしろ少年の父母は比較的口やかましいほうであつて、必ずしも少年を放任していたものではないとうかがえるのであつて、家庭内に特に問題はないことをも考慮すると、今後前記の居住関係の改善及び夜間外出についての監督を強めることにより少年を保護する能力は十分期待できると考えられる。以上の諸点を綜合して考えると、少年に対しては父母の監督に加えて保護観察所の観察の下で更生を図らせるのが相当であると認められるから、少年を中等少年院に送致する旨の処遇をした原決定は著しく不当であるといわざるを得ない。論旨は理由がある。

よつて本件抗告は理由があるから、少年法三三条二項により、原決定を取り消したうえ、本件を原裁判所に差し戻すこととして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 環直彌 裁判官 斎藤昭 小泉祐康)

参考二 少年S・O作成の抗告申立書

抗告の趣旨

私はこのたび強盗致傷でつかまりましたが警察が書いたちよう書がひどく、あくしつに書いてあるので抗告しました。それはごうしゆしてたくらんでやつたとなつているのです。自分はそんなきはぜんぜんありませんでした。ただなりゆきじようなつてしまつたことでとにかく、自分は、やるきがなくてこういうじようたいになつてしまいました。とにかくもう一度、私の話しお聞いてもらいたいのです。警察ではよくわからなくてぼ印を、おしてしまいました。とにかくやるきでやつたわけでわありません。そして、かこに一度もまちがいをおこしたことはなく、仕事もまじめにやつ

ていました。それとこんどの事件は、みずから、じしゆうもしました。それなのに少年院はひどいと思います。私は少年法ではやつたことよりこれからやるか、やらないか、だと思います。それだつたら自分は、あてはまると思います。かこになにか悪いことおしているのだつたら話しはべつだけれど自分はなりゆきじようなつてしまつたことで、べつにたくらんでやつたわけでもありません。そしてじしゆうもみずからしています。とにかくもう一度、調べて、むらい、ちよくせつあつて話しをしたいのです。とにかく、自分は合つてもう一度いいたいのですお願いします。

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